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小B6上製はどこへ消えた

私が装丁の世界に入ったのは約15年前なのですが、当時大変流行していて最近あまり見られないもののひとつに、「小B6判上製」の本があります。本体が左右112ミリ×天地174ミリ、これに上製の表紙がつきますので、本になった感じはB6の仲間と言うよりは、新書をハードカバーにして左右をちょっとだけ長くした感じになります。
このサイズ、片手の手のひらにしっくり馴染んで、なんとも心地良いんです。当時は洒落た装丁を施されて、女性向けのエッセイや、生き方指南の本などに多用されていた記憶があります。

あんなに流行していた判型なのに最近見かけないのには、ひとつには書店の店頭で平積みにされた場合目立たない、また棚差しになった場合、背がひっこんでしまってこれまた目立たない、というふうに判断されたからだろうと思います。

思えば上製(ハードカバー)自体、90年代と比べると圧倒的に少なくなりました。昔だったらコレ、絶対ハードカバーだったろうなあ、という内容の本が並製(ソフトカバー)や新書で出版されています。それだけ版元が、本の製作コストと定価設定にシビアになってきているのでしょう。
判型だけでなく、ちょっと値の張る用紙や印刷方式、特殊加工などもなかなか使えなくなりました。
もちろん出版社には、読者に適切な価格で本を届ける使命があるわけですから、コストを抑えようとする努力は当然だと思いますが、様々な趣向をこらした装丁が消えて行き、残るは並製の四六とA5、新書のみ……という世界もなかなか味気ないもののように思います。

100年に一度の経済危機だというこの時期になんてノンキな、と言われてしまいそうですが、今小B6判上製で本を出したらかえって新鮮かもしれません。今の20代の人は当時のブームを知らないわけですし。

そろそろ小B6判上製、リバイバルはいかがでしょうか?>出版社さま
# by upgraphics | 2009-03-05 16:35

寝耳に水

現在仕事場にしている住居兼のマンションは、築20年ほどの古い建物なのですが、どうやら近々大規模な外壁の塗り替え&修繕工事が始まるらしいのです。
以前、隣の区に住んでいた時も同じ工事があり、その間通風や日射が遮られ、ベランダで細々と育てている植物がだいぶ枯れてしまったことがあります。
全体に足場を組んでシートを掛け、6月ごろまで日中、トントンカンカンと音が響くと思うだけでも頭が痛いですが、数カ月間、部屋から太陽を見られなくなってしまうのはどうにかならないものかと思います。
# by upgraphics | 2009-03-05 15:04

束ぬことをお聞きしますが……

これから時々、仕事上よく質問を受ける問題のいくつかについて、私の考えを書いていこうと思います。

装丁原稿のデータを作る際、必ずそのご本の「束(つか)」を伺います。束の幅によって背のデザインが変わりますし、例え1ミリの増減でも、タイトル文字の大きさなどを微妙に調整することがあります。何よりも正確な束を知ることは、ぴったりしたカバーや表紙を作るのに大変重要なことです。

製紙会社が出している紙の見本帳には、紙1枚あたりの厚さが記載されていますので、本文に使う紙の厚さ×ページ数で、本文のみの束を割り出すことができます。これに表紙やカバーの厚みを足して背幅を割り出すことは可能で、実際、この方式で計算した束幅をお知らせ頂くことはよくあります。
……が、しかし、紙は製本するとページとページの間に空気を含みますし、背に塗られる糊の厚みも加わって、実際の束は計算値よりもずっと厚くなるのが普通です。ページ数が多いほど誤差も大きくなり、「あれ? なんだか背幅がおかしいぞ」という仕上がりになってしまいます。

束見本を取ることの意味はここにあります(束見本は、普通製本会社で職人さんが手作りしていますので、機械製本になる実際の本とは背の絞り具合が違ったりすることもあるのですが、まあその問題は置いておくことにして)。特に、口絵などで2種類以上の本文用紙を混ぜて使う場合は必須ですし、ちょっと変わった製本形式を選択する場合や、初めての製本会社を使う際にも必ず束見本をお願いした方がいいと思います。

束見本を取る余裕がない場合、同じ本文用紙を使った本があれば、それを束見本がわりにすることが可能です。この場合、ページ数も同じくらいが望ましいのですが、ぴったり同じでなくても計算することができるので大丈夫です。紙の厚み×ページ数よりもずっと正確な値を出すことができます。

それから、これもよくあることなのですが、本文と装丁が同時進行で動いていて、装丁の入稿締め切りぎりぎりまで、本文のページ数が確定しないことがままあります。その場合は、だいたいこれくらいだろうというアタリをつけてデザインを進めますが、やはりページ数が確定した時点で、最終的な調整をしたいところです。

通常の四六版などに使われる本文用紙では、1台(16P)変わると束はだいたい1ミリ程度変動します。背と平の色が異なるデザインや、背のタイトルを囲みケイで巻くデザインなど、背幅が変わると大きい影響を受けるデザインはなおのこと、普通に背にタイトルだけが入るだけのデザインでも、調整が必要になってくることがあります。
デザインによっては1ミリ程度の背幅の増減は無視できるものもありますが、入稿後に本文ページ数が変動した場合には、必ずデザイナーまでご相談いただければと思っています。
# by upgraphics | 2009-03-05 14:46

HP、久々の更新

久しぶりにポートフォリオHPを更新しました。
忙しさにかまけて、なんと2年近く放りっぱなし、その間の仕事作品も全く追加していなかったのですから我ながら呆れ返ってしまいます(^^;;
果ては、とあるクライアントの方に「廃業したのかと思った」と言われる始末。
HPの大枠はほとんど変わっていませんが、地味〜に作品を追加しています。よろしかったら是非ご覧下さい。
http://www.h7.dion.ne.jp/~upg/
# by upgraphics | 2009-02-27 11:47

もじもじカフェの話

昨年から、友人何人かと、「もじもじカフェ」というイベントを二ヶ月に一度開催しています。
よく、「勉強会?」とか「セミナー?」と聞かれるのですが、考えているのはもっとずっとゆるやかなもので、毎回「文字」と「印刷」に関するさまざまなテーマを設定し、それについてお招きしたゲストのお話を聞いて、気楽に話をしようというイベントです。最近盛んになっているサイエンスカフェ(科学者が一般市民と、お茶を飲みながら最新の科学のトピックを話し合う)のようなもの、といったところでしょうか。
「もじもじカフェ」ウェブサイト↓
http://www.moji.gr.jp/cafe/

さて先日、8回目にあたる「写真植字の時代」を2日間に渡って開催しました。今回のゲストは、写植暦46年のベテラン手動写植オペレーター、駒井靖夫さん。80年代、90年代の杉浦康平氏や戸田ツトム氏といったデザイナーの手掛けた書籍のお仕事で、お名前をよく拝見していましたので、「もじもじカフェ」にご出演頂けることになった時には、主催者一同飛び上がって喜びました。

写植を取り上げようと思ったのは、最近懐古ブームで脚光を浴びている(?)活版と違い、確かに一世を風靡した印刷関連技術であるにも関わらず、コンピュータによる文字組版に急速に取って換わられ、いつのまにか忘れ去られようとしている写植に、今光を当てなければ永遠に失われてしまうのではないかという思いがありました。半年以上かけて出演いただけるオペレーターの方を探したのですが、有名な写植会社や個人のオペレーターの方のほとんどが、ここ数年で廃業されたりDTPに転身されたりしているという事実に突き当たったのです。そんな中、現在も現役でお仕事を続けられている駒井さんを紹介いただき、初めて九段下の事務所にお邪魔したのが4月のことでした。

個人的な思い出になりますが、99年にデザイン事務所をやめるまで、手動写植には本当にお世話になりました。お願いしていたのはM写植さんなのですが、駆け出しの頃は毎朝、前日にお願いした写植を四ッ谷の事務所に取りに行ってから出社するのを日課にしていたものです。00年に独立して仕事をデジタルに切り替えたのですが、自分がそれまでいかに手動写植オペレーターの方に頼り切っていたのかということを痛感させられました。写植は、ただ1字づつ文字をベタ打ちするだけでは全くキレイではないのです。例えば本のタイトルや見出しなど、1字1字大きさを変えたり位置を変えたり、書体を組み合わせたり、場合によっては文字そのものに手を加えたりして初めて、読みやすく美しい文字組が完成します。また、細かい箱組なども、字間を綺麗に詰めつつ各行の左右の幅を合わせるのには相当な技術を要します。

今回は駒井さんのご好意で、初日は駒井さんの事務所、プロスタディオを見学させて頂きました。寛大にも、事務所に2台お持ちのPAVO-KY(1983年に発売され、92年まで作られていた写研最後の手動写植機です)で、参加者に実際に文字を打たせてくださいました。私も1字だけ打たせてもらったのですが、まず文字盤(「一寸ノ巾」方式という、特殊な文字の配列になっています)から目当ての文字を探すのが大変。
文字盤を手前のハンドルで動かして目当ての文字をレンズの所に持っていき、カメラのシャッターの半押しのようにレバーを押して文字盤を固定します。必要ならここで細かい調整を加え、レバーを押し下げると「ガシャン」と大きな音がして、カセットの中にセットされた印画紙上に文字が印字されます。

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最新モデルであるPAVO-KYは、左側にモニタを持っており、文字盤を固定した時点で文字が表示されるので、ついついパソコンを使っているような気分になってしまうのですが、文字の調整は一字づつ印字する時にしかできず、後からまとめて字間を変えたりといった、現代のパソコン上でするような試行錯誤は全くできない仕組みです。しかも、駒井さんがお仕事を始められた頃の写植機は、モニタなどなく、文字は点でしか表現されずに印画紙を現像するまでは仕上がりが分からなかったそうで、まさに神業としかいいようがありません。またこのモニター自体、正確に字間を調整するには解像度が低く(これは現在のパソコンのモニターも一緒ですね)、ここも駒井さんの腕に頼ることになります。

さて本番のカフェは、いつものとおりベルギービールの店、「バルト」で。
毎回そうなのですが、主催者側の人間としては、なんやかんやで当日はじっくりお話を聞くことができないんですよね。MDに録音した当日の模様を聞きながら、後から「ああ、こんな話になっていたのか〜」などと思うことがしばしばです。
今回は、駒井さんのお仕事を始められた若い頃の思い出や写研での研修の様子、独立されてからの写植をめぐる状況やデザイナーとのお仕事など、印象深いお話がたくさんありました。また、かつてご自身が打たれた写植を、説明のために改めて打ってきてくださり、欧文、数字と和文との混植を、具体的にどういう調整を加えているか、そのテクニックを細かく示してくださったことも、参加者の方に好評だったようです。
駒井さんの文字に向き合う姿勢を目のあたりにして、私自身も、写植を使って版下を作っていた頃の情熱を思い出しました。

※しかし今回、阿佐ヶ谷は七夕祭りの真っ最中で大変な人出でした。その上バルトの隣では路上ライブが始まる始末。げげっ、こんなのあるなんて聞いていなかったよ〜〜。皆さん集中して聞いてくださっていたのですが、カフェの開催中ずっとの大音響に肝を冷やしました。もじもじカフェの開催日程は半年ぐらい前には決まっているのですが、この件については、リサーチできず本当に申し訳なかったと思います。

ご出演くださった駒井さん、企画の実現に手を貸してくださった皆さま、また参加者の皆さま、改めてどうもありがとうございました。
駒井さんに打って頂いた名前は、一生の記念になりそうです。
# by upgraphics | 2007-08-09 23:59